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「実家は子どもに任せた!」……えっ、田んぼや畑はダメなの? 「家族信託」の落とし穴

 

 

  豊かな自然と住宅地が隣り合う山口県では、「実家のすぐそばに、親が手入れしている畑がある」 「少し離れた場所に、代々受け継いできた田んぼがある」というご家庭も珍しくありません。

 最近では、親が元気なうちに実家や預貯金などの財産管理を子どもに任せる「家族信託」が、認知症などに備える生前対策として注目されています。


「実家も土地も息子に任せる手続きをしたから、これで安心」


そう考えている方もいらっしゃるでしょう。

 ところが、ここで一つ注意していただきたいのが、その土地の中に「田」や「畑」が含まれていないかということです。家族信託は非常に便利な制度ですが、すべての不動産を同じように信託できるわけではありません。特に「農地」には、農地法という別のルールが関わってきます。



「実家は信託できたのに、畑だけ残った」?


 まず押さえておきたいのが、農地を家族信託の対象にする場合には、通常の宅地や建物とは異なる手続き上の問題が生じるということです。農地の権利移転には、農地法による許可・届出などが関係するため、単純に「親から子へ名義を移して管理を任せる」というわけにはいきません。


 そのため、


「実家の建物と宅地は家族信託に入れられた」 

「ところが、隣接する畑は信託の対象にできなかった」


という状態になることがあります。これが、将来の不動産売却などで問題になることがあります。


 たとえば、親御さんが認知症になった後、誰も住まなくなった実家を売却することになったとします。信託された実家については、契約内容に応じて受託者であるお子さんが売却手続きを進められる可能性があります。しかし、隣接する畑が信託されず、親御さん本人の名義のまま残っていたらどうでしょう。その畑については、親御さん本人の判断・手続きが必要になる場面が出てきます。もし親御さんが判断能力を失っていれば、実家と畑をまとめて売りたいと思っても、簡単には進められません。


つまり、


「実家は動かせる。でも、隣の畑だけ動かせない」


という事態が起こり得るのです。


 不動産は、隣接する土地と一体で利用されていることも多いため、「一部だけ手続きできない」ことが、思わぬ不都合につながることがあります。




「うちは農業法人に貸しているから大丈夫」は本当?


 さらに注意したいのが、現在使っていない農地です。

「田んぼは地元の農業法人に貸しているから、特に問題ない」 「今は農業をしていないけれど、いざとなれば売ればいい」


 そう考えている方も少なくありません。


 しかし、ここでも大切なのは、「今どう使っているか」と「将来、誰がどのように処分できるか」は別の問題だということです。


 たとえば、親御さんが元気なうちは、


「この土地を売りたい」 「住宅用地として活用したい」 「アパート用地として売却したい」


 といった判断を、親御さん自身で行うことができます。


 ところが、認知症などによって判断能力が低下してしまうと、売却や新たな契約などの法律行為を本人が行うことが難しくなります。


 「以前、住宅メーカーから声をかけられていたから、必要になったら売ればいい」

と思っていても、その「必要になったとき」が、親御さんの判断能力が低下した後では、スムーズに進まない可能性があります。

 家族信託を検討するときは、「今、売るつもりがあるか」だけではなく、将来その土地をどうする可能性があるのかまで考えておくことが大切です。




「今は駐車場だから」と安心するのも要注意


 もう一つ、よくあるのが、


「昔は畑だったけど、今は駐車場として使っている」 「もう何年も耕していないから、農地ではないでしょう」


 というケースです。


 ここで確認したいのが、登記上の地目や、農地法上の扱いです。

 実際の利用状況だけを見て「もう農地ではない」と判断するのは危険です。現在は駐車場として利用していても、登記や農地法上の手続きが整理されていなければ、売却や信託などの場面で問題になる可能性があります。


「昔から持っている土地だから大丈夫」と思わず、早めに専門家へ確認しておくと安心です。



では、どう備えればいい? 3つの考え方

 では、田んぼや畑をお持ちのご家庭では、どのように備えておけばよいのでしょうか。

ここでは代表的な3つの考え方をご紹介します。


1.元気なうちに「農地転用」などを検討する

 将来的に農地として利用する予定がなく、住宅地や駐車場などとして活用するのであれば、農地転用が可能かどうかを早めに確認する方法があります。

 ただし、すべての農地を自由に転用できるわけではありません。農地の場所や区域によって必要な手続きや制限が異なるため、「宅地に変えれば家族信託に入れられる」と単純に考えるのではなく、まずは農業委員会や専門家に確認することが重要です。

 転用が可能で、必要な手続きまで済ませることができれば、その後の財産管理について選択肢が広がる可能性があります。



2.元気なうちに「売却する」という選択肢もある

 もし、「将来的にも農地として使う予定がない」 「すでに買いたいという業者がいる」 「まとまった資金が必要になる可能性がある」という状況なら、親御さんの判断能力がしっかりしているうちに、売却を検討する方法もあります。農地の売却には農地法上の許可などが必要になる場合があるため、こちらも事前の確認が欠かせません。


 無事に売却できて現金化できれば、その後の財産管理については、預貯金など別の形で家族信託を活用できる可能性があります。「いつか売ればいい」と先送りするのではなく、売る可能性がある土地なのかどうかを元気なうちに家族で話し合っておくことが大切です。



3.あえて「現状維持」を選び、遺言で備える

 一方で、「農業法人に貸していて、当面は売る予定がない」 「先祖代々の田んぼなので、今は手放したくない」というご家庭もあるでしょう。

 その場合は、無理にすべてを信託しようとせず、実家や預貯金など、信託できる財産については家族信託で備え、農地については遺言などで相続への備えをしておくという考え方もあります。

 

 たとえば、「この田んぼは長男に相続させる」という意思を遺言書に残しておけば、少なくとも「誰に引き継ぎたいのか」という親御さんの意思を明確にしておくことができます。

 もちろん、遺言を書けば認知症になった後でも農地を自由に売却できる、という意味ではありません。生前の財産管理と、亡くなった後の相続は別の問題です。だからこそ、「今の管理は家族信託」 「将来の承継は遺言」というように、財産ごとに役割を分けて考えることが重要になります。




家族信託は「全部まとめて」ではなく「財産ごと」に考える

 家族信託というと、「財産を全部、子どもに任せる制度」というイメージを持たれることがあります。しかし、実際にはそう単純ではありません。自宅、アパート、駐車場、預貯金、田んぼ、畑……。

 財産の種類や所在地、現在の利用状況、将来の処分予定によって、取るべき対策は変わります。


 特に山口県のように、住宅地のすぐそばに農地が残っていたり、先祖代々の田畑を所有していたりする地域では、「家」と「土地」をひとまとめに考えず、一つひとつ確認することが大切です。


「ところで、あの田んぼと畑はどうなっている?」


と、一度立ち止まって確認してみてください。


 家族信託は、あくまで財産管理のための一つの手段です。


「うちの畑は家族信託に入れられるの?」 「昔は畑だったけれど、今は駐車場。この土地はどう扱われる?」 「実家と隣の農地を、将来まとめて売れるようにしておきたい」そんな疑問があれば、親御さんの判断能力が十分にあるうちに、一度専門家へ相談してみることをおすすめします。「元気な今なら選べること」が、将来も同じように選べるとは限りません。


 ご家族が所有している不動産を一つずつ確認し、「この土地はどうするのか?」を整理しておく。それが、将来の「しまった……」を防ぐための第一歩です。

 当事務所では、ご家族の財産状況を一つひとつ確認し、家族信託だけでなく、遺言や農地転用なども含めて、将来に備えた方法を一緒に考えます。お気軽にご相談ください。



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